恩師からの手紙 河野昭子 先生より


指導科目:フランス語(中学・高等学校)
2006年3月にご退職。
15回生から55回生まで、40年間教鞭をとられました。
同窓生(10回生・旧姓:土屋)でもいらっしゃいます。

同窓会の皆様、ご無沙汰しております。

お変わりなくお過ごしでしょうか。といっても今は緊急事態宣言が全国に延長され、外出自粛の中コロナとの戦いが続いています。

それぞれに苦労、工夫の毎日と思います。私も3月から予定がすべてキャンセルになり、誰とも会わず朝から晩までコロナの報道に心痛めています。

落ち込む毎日にふと思うのが母のことです。昭和20年5月、24才の母は臨月。そのお腹には私がいた訳ですが、近隣の人の多くが疎開する中、命を落とすなら親子揃ってと東京に残ることを決めたそうです。

「妊娠中に火事を見るとお腹の子供にアザが出来ると聞いたけど、それが本当ならあなたはアザだらけで生まれているわ」笑い話のように話していましたが、毎日あちこちらから火があがる中で、恐怖感や将来の不安はどんなものだったでしょうか。今なら少し理解が出来るのではないかと、母の話を聞いてみたくなるのです。コロナ禍の終わりが見えない今、戦争を生き延びた母の声が聞きたくなるのです。

毎年の卒業式で在校生が聖歌を歌っていました。「幸いなるかな・・・」で始まる美しい高音のハーモニーが、感傷的になっている私の心につきささり、思わず涙してしまうことが思い出されます。今母の声ともうひとつ私の頭を巡るのは、この聖歌の『心の平和』という歌詞です。『心の平和』は静かに現実と向き合える心の強さと私なりに解釈しました。その心にこそ神の声が届く、と学園で学んだように思います。焦らない、諦めない、腹を立てない。日々の報道に心乱されず、たくましく優しく乗り越えていきたいと自分にいいきかせています。

この原稿が出る頃には世の中が落ち着いた日常を取り戻していることを切に願います。

そして懸命にコロナと戦う医療に携わる方々が少しほっとしておられることを心から祈ります。